top of page

バッテリーAIの新潮流 ── ファウンデーションモデルとエージェント型ワークフロー

  • 5 日前
  • 読了時間: 5分

EV・蓄電池市場の急拡大に伴い、バッテリー管理の複雑さが加速度的に増しています。車両開発サイクルはわずか24カ月にまで短縮される一方、バッテリーの化学系は多様化し、LFP・NMC・ナトリウムイオン・全固体と選択肢が広がり続けています。新しいセルが登場するたびに数カ月にわたる特性評価試験をゼロからやり直す ── この従来型のアプローチでは、もはや開発スピードに追いつけません。


弊社がテックパートナーとして日本における事業開発全般を担っている英Eatron Technologies社が、2026年2月に開催されたSDV Automotive Expo Tokyo(東京)にて、この課題に対する新しいアプローチを発表しました。「バッテリーAI ── ファウンデーションモデルとエージェント型ワークフロー」と題した講演で、同社のDr. Ugur Yavasが登壇し、バッテリーAIの最前線を解説しました。



ファウンデーションモデル:特殊解から一般解へ

従来のバッテリーAIは「タスク特化型」でした。SOC(充電状態)推定にはSOC用のモデル、SOH(健康状態)にはSOH用のモデルをそれぞれ個別に構築し、新しいセルや化学系が登場するたびに専用のデータ収集と学習をやり直す必要がありました。


Eatron社が取り組んでいるバッテリーファウンデーションモデルは、このパラダイムを根本から変えます。セル・パック・化学系・車両・使用条件といった大規模で多様なバッテリーデータから、電気化学的な普遍的パターンを事前学習したAIモデルです。いわば、バッテリーの「物理法則」をデータから学んだ汎用的な知能基盤です。


このアプローチの真価は、未知のセルに対する「ゼロショット推定」にあります。講演では、事前学習済みモデルを一度も見たことのないLFP(リン酸鉄リチウム)セルに適用し、追加のチューニングなしでSOC推定を実施した結果が示されました。定電流容量マッピング、エネルギー貯蔵システムの各種動作パターン、実際のEV走行サイクルなど多様な条件下でテストされ、複数の温度帯や寿命末期のセルにおいても一貫した性能を維持しています。

さらに注目すべきは、このモデルが経験則ではなく、物理整合性のある電圧挙動に基づいてSOCを補正する点です。意図的に5%のSOC初期化誤差を与えた実験では、モデルが時間の経過とともに自己修正し、真のSOC軌道に収束することが確認されました。つまり、ブラックボックスではなく、バッテリーの物理的な振る舞いを理解した上で推定を行っているのです。


低温環境など特定条件での精度向上が必要な場合も、少量のファインチューニングデータだけで迅速に補正可能です。数カ月かかっていたセル特性評価を数日に圧縮できる可能性がここにあります


バッテリー劣化予測(RUL)への展開

同じファウンデーションモデルのアプローチは、バッテリーの残寿命予測(RUL: Remaining Useful Life)にも展開されています。従来のRUL予測は、限定的なラボ試験データや現在のSOH軌跡の単純な外挿に頼っていましたが、実際の運用環境ではそれだけでは保証管理に不十分です。


Eatron社のAI-RULモデルは、使用条件・不確実性・ドメインシフトをまたいで一般化する劣化挙動を学習しています。講演では、温度・Cレート・デューティサイクルといった条件を変化させた場合の劣化シミュレーションが紹介され、「もしこうしたら?」という問いに対して、それぞれの選択肢がどれだけの運用コストを伴うかを事前に可視化できることが示されました。


エージェント型ワークフロー:数値出力から意思決定支援へ

講演の後半では、さらに先を見据えたビジョンが語られました。従来のバッテリー管理システムはSOC・SOH・RULの数値を出力して終わりですが、Eatron社のBOS(Battery Optimization Suite)エージェントは、その先の「行動」まで踏み込みます。


BOS エージェントはマルチエージェント型のワークフローを採用しています。BMSやクラウドからの構造化イベント(不均衡アラート、異常傾向、しきい値超過など)をトリガーに、根本原因分析(RCA)エージェントがバッテリーの仕様や過去の動作状況からコンテキストを特定します。次に、単一のルールベース応答ではなく、マニュアル・制約・過去の結果を参照しながら複数のバランス調整戦略を評価。最終的に、計画エージェントが時間枠・SOC目標・運用コストを考慮した実行可能な介入計画へと変換します。


「いつ、どのように、どの選択肢がどれだけのコストを伴うか」を推論して判断する ── これは、エージェンティックAIをバッテリー管理に特化して適用した、業界でも先進的な取り組みです。


他のバッテリーAI企業との違い

バッテリーAI市場には複数のプレイヤーが存在しますが、Eatron社のアプローチが際立つのは、「特殊解」ではなく「一般解」レベルに到達している点です。タスクごとにモデルを個別構築するのではなく、バッテリーの普遍的な物理パターンを学習したファウンデーションモデルから、各タスクへ最小限の追加学習で適応させる。この技術的な深さが、未知のセルへのゼロショット適用や、物理整合性のある推定として実証されています。


加えて、AIモデルの出力を自律的に行動計画へ変換するエージェント型ワークフローを統合していることも、単なるデータ分析ツールにとどまらない同社の独自性です。


Eatron社は現在、世界中で30,000以上のバッテリーをモニタリングしており、Oshkosh、LG、ABB、VinFast、Knorr-Bremseなどグローバル企業をパートナーに持っています。


Envitalは「エッジとクラウドをつなぐ知能を、実世界へ」をミッションに掲げています。Eatron社のBOSは、エッジ側でのリアルタイム推論とクラウド側での学習・最適化を統合し、さらにエージェント型ワークフローで自律的な意思決定まで実現する技術です。まさに弊社のビジョンの具体的な実装例と言えます。


弊社は引き続き、バッテリーAIをはじめとするエッジ-クラウド連携の先端技術をもつ海外企業と日本市場をつなぐ架け橋として、モビリティ・エネルギー分野での事業開発を推進してまいります。


Eatron社の技術や日本市場での展開にご興味のある方は、お気軽にお問合せください。



関連リンク

 
 
 

コメント


お問い合わせ

メッセージが送信されました。

bottom of page